水産資源や海洋資源に関するワークショップ第1回報告
お知らせ 2021.07.17
SDGsを考えよう/今、豊洲市場として取り組めることとは?
水産資源や海洋環境に関するワークショップ
東卸・国際化プロジェクトでは、本年度の取り組みの一環として、SDGsに関するワークショップ(勉強会)を開催しています。
近年よく耳にするようになった「SDGs」。21世紀の世界が抱える課題を包括的に挙げて、すべての人が一丸となって達成すべき国際社会共通の目標で、その中には「水産資源」や「海洋環境」に関する課題が含まれており、水産物を取り扱う我々にとっても身近な問題です。
ワークショップは全4回の開催で、回ごとにテーマを変え、有識者や市場関係者を招き基調講演とパネルディスカッションを実施しています。
傍聴者も募集しておりますので、ぜひお問合せください。
本ページでは、開催時の様子を録画にてご紹介しています。
問合せ先:東卸組合事務局 03-6633-0166
第1回 「サステナブルな水産流通を目指して」を開催しました
開催日:6月21日(月) 12:30~14:30 於:豊洲市場 東京都講堂
【資料】
開催報告書
【開会挨拶】東京魚市場卸協同組合理事長 早山 豊
・本日は大勢お集まり頂き誠にありがとうございます。
・本日、第1回目は「サステナブルな水産流通を目指して」という大きなテーマで開催させて頂きました。
・東卸は、市場の国際化に対応するために、移転前から国際化プロジェクトチームを立ち上げて活動してまいりました。
・これまでは、貿易実務の学習や輸出に係る施設の見学、海外バイヤーとの交流及び商談テーブルの設定、HACCP関連の諸施策、トレサビの問題などを行ってきました。
・直近では、水産資源管理の国際認証についての取り組み、とりわけMEL協議会の垣添会長様には大変なご協力を頂き、セミナーや仲卸の認証取得にご尽力を賜りました。
・過去の産業政策や化石燃料を主体とした経済活動の結果、現在起きている様々な環境問題、この人為的な問題を解決するにはやはり人間の力が必要なのではと思います。
・我々市場関係者はご承知の通り、コロナの影響で非常に厳しい中にいます。しかし、我々市場業者は、流通の重要なポジションとして、公正な取引や評価機能や分荷機能など、ベーシックな機能を継続しながら、一方で我々の商材である水産資源に関しては、今の環境問題の中で非常に重要であるとの認識のもとで、議論を積み上げていかないといけません。
・議論するだけでなく、大切なことは、我々の足元で何ができるかを検証し実行することだと思います。そのような前向きな取り組みが、新しい市場像を作っていくのだと思っています。
・ワークショップはこの後3回続きますが、本日の回が大きな一歩となればと願いまして、挨拶に代えさせていただきます。
【導入・コーディネーター】東卸組合・国際化アドバイザー 江口氏
・東卸組合のこのような取り組みは多方面で注目されています。本日参加されている方々が、このワークショップに何を求めて来られているか、それぞれだと思いますが、現在のコロナ禍の苦境の中で、いずれ来るだろうアフターコロナを見据えて、今後の水産業界の方向性はどうなるのか、今何が起こっているのか、そのヒントを今回のワークショップを通じて見つけてもらいたいと思います。
(江口氏資料より抜粋①・〔出所〕農水省・外務省資料)
(江口氏資料より抜粋②・〔出所〕朝日新聞社 2020年12月調査)
【基調講演①】 (一社)マリン・エコラベル・ジャパン協議会 会長 垣添 直也 氏
~私達が直面しつつある「新しい時代」とは?~
① コロナ禍が変えた「社会のあり方」
・コロナ禍は100年に一度の試練。同時に世界を大きく変える絶好のチャンスです。
・今、新しい社会構造、産業活動、生活様式を求める動きが顕在化していますが、向かう先は持続可能な社会です。同時に今まで時代を支配して来たあらゆるコトや仕組みが「無境界化」します。
・皆さん(卸や仲卸)は行商卸ですが、だんだんと小さくなっていくと思います。その中で番を張っているのは豊洲の方々だと思いますが、無境界化になってくると思います。
・緊急事態はコロナだけではありません。気候変動は非常に不都合な真実だと思います。私は、海を守れなくて人類の明日が守れるかとずっと言い続けています。何故かというと、海は人類が享受している生態系サービスの3分の2を提供しているので、海がなくなれば人類は生きていけません。
・地球は10万年毎に温暖化と寒冷化を繰り返しています(ミランコリービッチ理論)。産業革命以降の150年温暖化は、大きな温暖化のトレンドの一部で今もその中にいますが、食料の産業基盤は危機にさらされています。
・気候変動がもたらす食の危機は現実のものとなっています。「食」の供給の脆弱性は水産物だけではありません。穀物においては土地の制約と水の不足、海水に関しては海水温の上昇や酸性化、工業的畜産システムに対しては動物愛護の概念が、また飼料の制約などもあります。
・社会的弱者に対する「食」の充足の課題がある一方で、個の主張や価値観が「食」を多様化していきます。この点は皆さんのご商売に深く関係するところです。
② 水産資源は?今何が起こっている?
・現在地球上には、家畜としての豚10億頭、牛15億頭、鳥200億羽がいると言われています。これまでの技術革新で、動物を食肉、牛乳、卵を生産する機械として進化させ、それによる生産量は牛肉が約6千万t、豚肉が約1億t、鶏肉約1億t、鶏卵約6千万t、牛乳約5億tとなっています。水産物は約1億8千万tで、これを見ても水産物が重要であると分かります。
・地球上にいる家畜としての15億頭の牛が消費する餌や水、また環境に与える影響に、地球は将来にわたり耐え続けられるか?という疑問があります。
・そこで、これに代わる「培養肉」や「代替肉」、「代替食」が『代替プロテイン』として急浮上しています。これはメディアが持ち上げるので、話題になっています。
・私は、明らかに食の創造的破壊が始まると思っています。しかし、水産物に関してはプロテインなのかというとそうではない、水産物はプロテインではないと考えます。
・2000年代中頃から、科学者達の間で「水産資源は枯渇に向かっており2050年には食卓に上る水産物はなくなる」という資源崩壊論を繰り返し、メディアを巻き込んだ論争となりました。
・しかし、その論に異を唱える学者からの論文が発表されましたが、メディアは取り上げませんでした。
・その後、2020年にカリフォルニア大学サンタバーバラ校のコステロ教授のチームが「人類がこれから30年持続的に海洋を利用するならば、海洋からの食糧供給は増加する需要を支えうる」と唱え、資源崩壊論は正しくないと指摘しました。
・漁業(ワイルドキャッチ)が増えていくのではなく、養殖が増えると言っていると思います。
・豊洲の皆様はどちらかというと養殖より天然の方が上と思っているでしょうが、それは必ずしも正しくはないかもしれません。
・2020年12月には、海洋サミットの中で、「2030年の目標として漁業資源の持続可能な水準までの回復および養殖の持続可能な拡大への取り組み」をコミットしました。
・実は日本は2019年に発表されたIUU漁業指数では152か国中ワースト19位で、日本は指標40項目においていずれも厳しい評価となりました。
・欧米系NGOが持つ日本の透明性への疑問と日本の漁業に対する不信感と片付けず、真摯な対応が求められます。
・正しいことをしているかもしれませんが、発信が足りないのだと思います。
③ エコラベルという考え方
・ここで、エコラベルという考え方が登場します。
・エコラベル制度とは「一定の環境基準に適合している事業やその製品について認証を与え、定められたラベルを表示することが認められる仕組み」と定義されました。
・1972年の第1回国連人間環境会議の「ストックホルム宣言」から20年を経て、エコラベル認証が有効な手段として国際的にアジェンダ21に盛り込まれました。認証ラベル制度は2012年のロンドンオリンピックから始まり、リオ・デ・ジャネイロ、東京オリンピックに継承されています。世界は着実に前進し、「水産エコラベル」に到達したと言えます。
・MELも2019年12月に「GSSI承認スキーム(世界で9件)」の一員になりました。
④ 「新しい時代」に向けて動き出した社会
・ようやく日本も新しい時代に向けて動き始めました。ターニングポイントは2020年だったと思います。
・2020年の菅総理大臣の所信表明で「2050年までにカーボンニュートラルの実現」を演説しました。2021年5月には「改正地球温暖化対策推進法」が成立しました。
・社会や環境に配慮した消費活動のことをいうエシカル消費については、2016年から2019年の3年間で「興味がある」と答えた方は35.9%から59.1%に増加し、関心の高まりを見せています。
・エシカルとは、「フェアトレード」や「エコラベル」「地産地消」等があたります。
・水産エコラベルの先駆者であるMSCはどのくらい認知されているか、日生協のモニターアンケートによると2016年から2020年の4年間で2倍(15.9%から32.1%)になっています。
④-2 新しい時代を支えるために
・天然資源を持続的に利用することは、コロナ後の「新しい時代」にとって最も重要な課題のひとつです。「新しい時代」は健康を改めて考える時代でもあります。
・中でも水産物は、主要食糧の中で天然採捕からの供給が突出して高く、広く世界の人々の生活を支えているだけに、その管理と持続的利用は切り離せません。今後更に、海面や陸上養殖拡大への取り組みが進むだろうと思われます。
・日本では新漁業法が2020年12月に施行され、漁業も資源管理も新時代に入りました。同時に水産流通も変革を求められます。
・是非豊洲の皆様には、水産物の持続可能な利用のリーダーとして、また「水産物はプロテインではない」ということの伝道者としての行動をとってほしいと思います。
・MEL認証数は120件、魚種は19種で数量は15万tとなりました。認証申請中あるいは準備中の小売業は10チェーンを超えました。新しい時代の小売業にとって、エシカル消費の流れからも水産エコラベル認証は無視できない時代となってきています。
⑤ 豊洲市場の明日―「無境界化」とは?
・無境界化は脅威であるが、既に起きつつある現実でもあります。水産流通業界には多くの新規参入者が現れています。それも異業種から。
・水産流通業が本当に衰退産業なら、新規参入者は出現しないはずです。
・新規参入者は新サービス提供を切り口として参入し、一定の支持と成功を享受しています。
・皆様は参入から身を守るだけでなく、外に出ていくことが「無境界化」だということです。
・もちろん、皆様の強みである「目利き」や様々なサービスが、日本が世界に誇る魚食文化を支えている。でも、それに上乗せするコトはないでしょうか?
・地域海洋資源活性化に参加することや水産物はプロテインではないことを伝道することが皆様の明日を創るとしたら…
・「無境界化」への挑戦は豊洲にとって必然ではないか?
・そして、サステナブルやフェアトレードは皆様の明日を担保するツールだと思っています。
・水産物の価値はモノとしての価値だけではない。コトとしての価値、社会的価値の確立は新しい時代の付加価値をつくります。
【基調講演②】アラスカシーフードマーケティング協会 トレードレプレゼンタティブ 家形 晶子 氏
① アラスカシーフードマーケティング協会とアラスカ水産物について
・アラスカシーフードマーケティング協会とは、アラスカ州と水産業界の官民共同事業体(パートナーシップ)です。ミッションは、持続可能なアラスカ産水産物を広く伝え、水産業界だけでなく消費者に対してもコミュニケーションを行っています。
・アラスカ産水産物の特徴は、魚の養殖を法律で禁止し、天然の水産資源の「再生産性」を活用しています。正しい漁業、責任ある漁業管理をしている魚であるということ。天然の漁業ゆえ様々な自然環境から影響を受けますが、予防的措置を徹底するなど、資源の持続を何よりも優先しています。
・両軸として、海の環境、その他の条件を損なうことなく長期間継続可能な漁業で漁獲しています。天然だからいいというものではなく、環境や社会的責任に配慮した漁業であるということです。
・SDGsの14番「海の豊かさを守ろう」は、海洋と海洋資源を持続可能な開発に向けて保全し、持続可能な形で利用する、という意味ですが、アラスカ州では、SDGsが策定される55年前に州憲法で同様のことが施行されていました。第8章の4項「持続する範囲で」魚や森林…などのアラスカ州のすべての天然資源は、持続可能な範囲でのみ開発、活用、維持される。と定義されていました
② アラスカのサステナブルな漁業を支える5本の柱について
・一番重要なところで、まず「漁業管理」ですが、責任ある漁業管理をしていることを証明するために「認証制度」を設けています。アラスカのほとんどの商業漁業はMSC認証漁業ですが、さらにアラスカ州独自の認証プログラムを作っており、アラスカの商業漁業はほぼこの2つを取得しています。
・しかし、「漁業管理」と「認証制度」があるだけでは持続可能な漁業にはなりません。「漁業コミュニティ」の持続も大事で、へき地の小さな漁村や漁師たちも持続的に活動できるようにコミュニティを支えることも大事なサステナビリティになります。
・また、獲った資源をありがたく頂戴し、無駄なく活用する。例えば、スケソウダラを例に挙げれば、身の部分はフィレやスリミに、卵はスケコとして活用、そうした製品を生産したのこりの部分も、フィッシュミールにするなど、余すことなく活用します。
・「社会的責任」については、水産業に携わる人は、公平で安全な環境で働くことができる、これも大事なサステナビリティとなります。
③ 責任ある漁業管理認証プログラム(RMF)について
・RMFは、MSCやASCに先駆けて作られた、世界で初めての認証プログラムです。
・MSCと違い特徴的な点は、原産地(アラスカ)を表示できるエコラベルであること、また、ロゴライセンス料が発生しません。
④ SDGs目標14への貢献 アラスカシーフードにできること
・ターゲット14.4に「過剰漁業や違法漁業、破壊的な漁業慣行を終了させる」とあります。我々流通業者ができることは、それらを市場から排除することだと思います。
・サステナブルな商品を調達(責任ある調達)し、目利きの立場からサステナブルな商品をお客様にお勧めする。そして、サステナブルな商品を、サステナブルと分かるように販売する。それを表現するために、エコラベルがあります。
・これからエコラベルの必要性がましていくことは疑いのない事実です。ただ、認証を取得するためにはコストがかかり、手間がかかり、明日からやろうとしてもなかなかできないと思います。
・そこで、私どもアラスカシーフードマーケティングでは「アラスカ産シーフードのロゴ」がございますので、それを活用して頂き、お客様とコミュニケーションを図って頂ければと思います。
・ロゴは、エコラベルと違い認証制度ではありませんが、アラスカ産水産物を扱っているという信用を発信できると思っています。
・本年5月に実施した消費者調査では、「アラスカ産」と明示された商品に関して約80%がポジティブに反応(買いたいと思う)した結果が出ました。
・最近、飲食店から「サステナブルな商品」はないかというお問合せが増えています。飲食店さんもどういう風に消費者に伝えていっていいか分からない方がいらっしゃいます。私共はそういう動きを後押しするために、例えばメニュー開発のご協力や販促物や差し込みメニューの制作協賛、SNSを活用して販促のお手伝いなどをしております。量販店向けにもシーフードフェアやポップの制作、レシピカード制作など、各種支援をしています。
・最近はSNSでクイズコーナーを設けて、ご好評を頂きました。こうした消費者や業者問わず、コミュニケーションを図ることは非常に重要だと思います。丁寧にアラスカ産水産物の特徴を説明することで、サステナブルな天然魚に興味を持ってもらえればいいなと思っています。今後の取り組みの参考にして頂ければ幸いです。
【パネルディスカッション】 垣添氏、家形氏、豊洲市場関係者を交えて
(東京都水産物卸売業者協会 会長 伊藤 裕康 氏)
・基調講演を聞いて、今一番感じていることは、世界的な潮流の中で、最近サステナブルの問題が取り上げられていますが、垣添会長とは、日本水産の社長時代のずいぶん前からお付き合いしており、お会いするたびにサステナブル的な考えをお聞きしていました。今日はその集大成のようなお話だったと思います。
・我々が市場で魚を扱っていく上で、一番大事な基本的な考え方が示されたんだと思います。自分が所属している会社でも既にMELやMSCは取得していますが、それらをどう生かして仕事をしていけばいいのだろうという思いを強くしています。
・認証を受けた水産物をどうやって強調しながら販売していくか、お客様にどうやって伝えながら販売していくか、これは後半のアラスカシーフードマーケティングさんから教えて頂きましたが、私もアラスカには昔からなじみが深くアラスカの商品開発をしてきました。まさに、我々が今、何を実行していかなくてはいけないか、これから更に突き詰めて考えていくべきだろうと。
・豊洲市場の中で、何を考え、何を大事にしていけばいいのか、何をしてはいけないのか、そこを区別してこれから進んでいきたいと思います。
((一社)全国水産卸協会 会長 網野 裕美 氏)
・今やSDGsは言うまでもなく、組織や企業の大きな共通の課題になっています。その中で魚を生業にしている我々は、当たり前に真剣に取り組まなければならないテーマです。
・私自身、MELジャパンの協会理事を務めさせてもらっています。推奨する立場でございまして、卸は水産5社は皆、認証を取っております。昨年の夏あたりから仲卸さんも気運が盛り上がって3社(1社は申請中)取得されている状況です。流通を担う体制が出来上がりつつあるという認識ですが、残念ながら認証のマークがついた鮮魚は見たことがありません。
・卸からMELのロゴが付いた鮮魚が仲卸に販売されるということを夢見ていますが、現状はそうではない。流通業者として、何ができるか。先ほどの家形さんのお話で、「サステナブルな商品を調達し」「サステナブルな商品をお客様にお勧めし」「サステナブルな商品を分かるように販売する」というのを聞いて、目からうろこが落ちたのですが、ただ、その商品が今頭に浮かばないのが実際のところです。アラスカ産の商品は大いに売り出そうと思っております。
(東京魚市場卸協同組合 副理事長 亀谷 直秀)
・この国際化プロジェクトが立ち上がったのが築地時代で、移転前の2、3年前から始まりましたが、当時の我々は、市場に入ってきた魚を売る、それだけの商売でした。それ以外のことはあまり考えていなかった。
・当時は和食がユネスコの文化遺産になったり、アベノミクスで農産物の輸出を1兆円にするなどの施策が出て、国内需要が減っている中で海外需要を取り込もうという動きの中でプロジェクトが立ち上がりました。
・そのうちに、海外に出すのなら衛生管理が必要だとか、国際認証が必要だとか、資源管理に目を向けないといけないなど、様々な要件が増えてきました。
・昨年は垣添会長にMELの話をして頂いたり、取り組みを広げているところです。
・豊洲市場は、自分たちは日本一だとか世界一だとか言っている割に、大したことをしてこなかったのではないかという後悔もありました。
・SDGsの話は色々ありまして、電気自動車が環境に良いかというと、簡単な話ではなく、電気をどうやって作るのかとか、どんな環境で作っているのかなど、トータルな話になってきている。海のことも、広い視点で考えていくということを当事者として持っていなければならないと思っています。
・先ほど、垣添会長から水産物はプロテインではないという話がありましたが、これまでは、プロテインだったから魚価も上がらなかったのではないかと思いました。肉と魚が同じプロテインであれば、現在は肉の方が安いので、消費者はそちらを選ぶと思います。
・お話を聞いていて、食肉を生産するには環境にかなり負荷がかかっていると思いますので、そういったことが認知されてくると、水産物がまた違った意味で見直されてくるのではないかと思います。
(東京魚市場卸協同組合 副理事長 山﨑 康弘)
・当社は仲卸として、MEL認証(CoC)を昨年取得しました。取得のきっかけは、当時22か国に生鮮品を輸出している中で、インボイスの作成や輸出手続きなど煩雑な作業と同時に、サステナブルとして世界で認められたものを提供するという信用が大切だと痛感しておりました。
・その矢先に垣添会長にご相談したところ、厚いサポートを頂きました。その際に「これは豊洲の挑戦だ」と言っていただいたのが取得を目指すきっかけでした。
・ただ、残念ながら、コロナの影響もあり、取ったのはいいがまだ一度も販売はできていません。コロナが落ち着いたら、生産者・卸・仲卸・お客様とチェーンでつながるような成功事例を早く作りたいと思っています。
・今、認証を取得している仲卸は3件(1件は申請中)ですが、すべての仲卸が取得して、「豊洲は凄い」と言われるようになるのが私の夢です。今後も東卸の国際化プロジェクトを通じて熱い思いで取り組んでいきたいと思います。
(㈱亀和商店 代表取締役 和田 一彦 氏)
・当社は1998年にアラスカの一本釣りの冷凍サーモンを取扱い始めまして、非常に品質が良くて刺身でも食べられる、魚に惚れちゃいけないんですが、その時からアラスカとのお付き合いが始まりました。
・向こうの特徴は、漁に対して慌てていない。漁船で獲る量を決めていて、獲ってもまだ海に魚はいるから、一番いい状態でいい時期に取る。中には船で捌いて凍結する所まで行っているものもあり、それが刺身でも食べられる。これはサステナブルな漁業が成立しているので、色々工夫の余地があるということだと思います。
・これまで消えていったブランド魚はたくさんあります。かっこいいマークを作ったけど、そもそも魚がいないよねと。我々は魚屋ですから、魚がなくなったら商売ができないと思いました。
・もう一つは、全部養殖になったら、セリはいらなくなる。セリがなくなれば仲卸はいらなくなるという危機感でした。アラスカと付き合ってきてそれがだんだん分かってきました。
・その後、たまたまMSCの存在を知り、アラスカ産水産物はMSCを取っているので、うちがMSC CoC認証を取れば日本で最初に販売できると考えました。それが商売になるかどうかは分かりませんでしたが、宣伝費だと思ってずっと取り扱ってきました。
・そもそも、魚が入ってこなければ仲卸はいらなくなる、すべて養殖だったら豊洲市場は集配センターでいいよねということになる、そういう点が、MSCを続けてきた動機となったわけです。
・多様な天然魚が豊洲市場に集まるから、目利きも活かされるわけです。豊洲の仲卸は専業分化されている、これこそサステナブルに通ずると思います。表現方法の一つがエコラベルだと思います。
・ようやく2018年頃から外資系のホテルでエコラベルを調達基準に定め始めました。今のところ、サステナブルな水産物を選ぶ方法として、これしかないのではないかというのが実感です。
(コーディネーター 江口氏)
エコラベルの認知度は上がってきているとはいえ、市場流通に乗っているとは言えない。このことを打破するにはどうしたらいいでしょうか?
(東京魚市場卸協同組合 副理事長 山﨑 康弘)
・お客様からの要望があって初めてセリ場に並ぶのが現実だと思います。売れるか売れないか分からないものを店に置いておくのはリスキーとなる。
・提案として、官民一体でサステナブルを推進する意味で、MEL商品を販売することに伴う販促物等について国の補助を頂いて、向こう何年かは続けられるようにしてほしいと思います。アラスカも官民一体で取り組んでいます。官の力も借りながら進めることが近道だと思います。
(アラスカシーフードマーケティング協会 トレードレプレゼンタティブ 家形 晶子 氏)
・アラスカシーフードは、3つのサイトで成り立っています。一つはアラスカ州政府、そして水産団体、マーケティング協会ですが、漁業関係者が一律のレートでマーケティングタックスのようなものを州政府に収めています。その分配金でマーケティング協会が活動に充てるシステムになっています。マーケティング協会はアメリカの輸出に関する予算も獲得して各国へのマーケティングを展開しています。
・現在は、アラスカ州政府の予算が減り、主に関係者からと連邦政府の補助金とで賄っております。
・販促の話ですが、協会では販促ツールを作っております。それを皆さんが目を通すかどうかは分かりませんが、アラスカ産の水産物を選んでもらうには、コミュニケーションが大事だと思っています。日本の海産物も多くは天然で優れています。色々な形で、色々な方に対してコミュニケーションを取っていくことが必要ではないでしょうか?
(コーディネーター 江口氏)
・卸と仲卸が一緒になって、または豊洲市場全体で取り組むことについて何かお考えがありますか?
(東京魚市場卸協同組合 副理事長 亀谷 直秀)
・一度、MELの商品が入ってきたのを見たことがあります。福島県のカツオとサバだったと思います。セリ場に並んでいたので、買ってみました。
・正直なところ、まだ認知が低いと思われます。大きくMELマークがついていましたが、セリ
人も仲卸もまだ関心がないようでした。店で売りましたが、お客さんも知らないようでした。
・どういう形で皆さんに知ってもらうか取り組むことも大切ですし、我々当事者は水産資源に関して目を向けるのは当然ですが、消費者にどれだけ理解してもらえるかがポイントだと思います。お客さんからの要望が出てくる形が望ましいと思います。
・また、商材がまだまだ少ないので、もっと普及してくれば変わっていくかもしれません。
【参加者との意見交換】MEL CoC認証を取得されている2社様に意見を伺いました
(中部水産㈱ 代表取締役 脇坂様より)
・私どもは2年前にMEL CoC認証を取得しましたが、お話に合った通り、商品を販売することはできていません。自分たちの努力不足もあろうかとは思いますが。
・先日、子供の進学教室の日能研の書籍売り場で、SDGsの本が置いてあったので驚きました。海を守ろうのページには、海洋ゴミの問題が書いてありましたが、魚の記述が少なかったです。
・日本は島国で、世間ではまだまだ魚が無限だと思っているように感じています。実際は、獲り続けたらなくなってしまう有限の資源なので、サステナブルな漁業を守ろうという話になりつつあります。
・MELに関しても、子供から教育へ組み込んでいくなど、思想が流れていないと中々反応できないのではないかなと思います。例えば、文化相とか学校教育に反映させる努力も必要だと思います。
((一社)マリン・エコラベル・ジャパン協議会 会長 垣添 直也 氏)
・私も同じことを考えていまして、コロナの前には出前授業を行っていました。墨田区の寺前小学校で、5年生6年生の合同授業だったんですが、すごく熱心でした。質問もたくさん出ました。
・学校教育と給食を組み合わせて行うことは、非常に価値があると思いました。機会があれば何度でもしていきたいと思います。
(㈱イトーヨーカ堂 マルシェ部 鮮魚担当 シニアスーパーバイザー 湯山様より)
・我々は2019年に「グリーンチャレンジ2050」と題して4つのテーマを掲げて、CO2の削減やプラスティック対策や食品ロスや、調達部門としては、持続可能な調達という取り組みを開始しました。
・売場でお客様に伝える中で、スタートとして、「顔が見えるお魚」ということで養殖魚のフィレを始めました。それがある程度形になってきた今、天然魚にも力を入れていかなくてはいけないと社内で話しています。
・その中で、これまでは産直という形で取引していたものが多かったのですが、今後、市場流通に対しても前向きに取り組んでいきたいと考えています。
・我々からのお願いは、我々は現場でお客様に伝える立場なので、市場の皆様が川上の情報をお持ちなので、その情報を頂きながら一緒に前向きに取り組んでいけたら明るい未来を創っていけると思っています。
【まとめ】
〇本ワークショップでの基調講演、パネルディスカッションを通じて、「サステナブルな水産物の流通」は重要であるとの共通認識が改めて確認されました。
〇基調講演では、MEL垣添会長から、「食が多様化するなか持続可能な水産物もその一角を担うことできるはずであり、『水産物≠プロテイン』という点でも豊洲市場はその伝道者として期待されている。付加価値を付けていく、消費者の変化に対応していくといったことにも、豊洲市場の目利きや信用、専門に特化したプロ集団といった機能を活用しながら、『無境界化』になっていく市場の外に出て様々な取り組みを進めていくべきである」とのご意見を賜りました。さらに、サステナブルシーフードの普及・流通が課題である中、アラスカ・シーフード・マーケティング協会のように、「天然魚の資源が再生産で回っており、様々な販促ノウハウや情報発信等により効果を上げている」アラスカの事例をご紹介いただきました。
〇パネルディスカッションでは、アラスカの先行した取り組みなども参考にしながら、豊洲市場でも卸・仲卸が一体となって取り組みを進めていくことが大事であり、取り組みを進めるにあたっては、行政からの支援(活動の呼び水となるような助成等)も必要。
一般消費者の間では未だサステナブル水産品に対して認知不足であり、食育、普及啓発などの取組も効果的。無境界化のなか豊洲市場の強みを活かして外にでて、例えば、外部の流通企業とも連携していく取り組みも今後検討すべきである等、意見が交わされました。
〇「豊洲の挑戦」として本ワークショップではサステナブルという豊洲市場の将来にとって大切な考え方が示された。どのように仕事を進めていくのか、認証魚を強調しながらどのように販売していくのか、豊洲市場として何を実行していくのか等、検討し実行していく取り組みが今後必要である、との共通認識が形成されました。
(以上)